お乾燥わかめのはなし

ボカロPやってるものです。

【歌詞詳解】「アストロノーツ」

備忘録として、自分の書いた歌詞を噛み砕いて説明します。

今回は、「アストロノーツ」を紹介します。以下、視聴のリンクと歌詞を掲載しました。(音楽分析編も執筆予定)

(動画のリンク)

 

 命の泡はかつ結びてかつ消え
 留まらない平衡を保ってる
 ただの濃度の高まりが
 こんなにも苦しみに纏わりつかれて
 疲れてるはずがない

 いや、そうじゃない
 天の星まで巻き込みたがって
 圧倒的に足りないものを
 それじゃあ恋も叶わないな
 嗚呼 殺してくれ愚か者

 積極的な破滅に向かえば
 歯向かえば 彩りない 道理ない
 but we'll keep on going up going up going up
 懲りないな
 太陽に近づいて 融解して 寛解して
 彩りない 道理ない
 but we'll keep on going up going up going up
 
 どんなに安っぽい言葉すら
 枯渇した星から逃げて
 沈没船に乗って 何光年先の場所目指してる
 そんな感覚なんだ愛は
 理屈じゃなくて追いつけない
 
 いや、そうじゃない
 アキレスと亀持ち出したって
 呆れるほど真理は単純
 やっぱり君に敵わないな
 嗚呼 絶えなば絶えね玉の緒よ
 
 消極的な破滅を待つより
 分かつより もう想いない 由(より)ない ないなら
 もういいや もういいや もういいや
 飛びたいな
 この星から遠ざかって 窒息して 実測値で
 もう想いない 故郷を眺める
 holy night holy night
 
 飛び立ってこう 飛び立ってこう
 二人だけで不時着した先で
 通信機全部ぶっ壊して
 死のう 酸素を吸い尽くして
 行方不明になろう
 文字通り蒸発してしまおう
 
 いや、そうじゃない
 嫌そうじゃない?
 嗚呼 まもなく崩壊するこの船で
 やっぱり藍に染まっていた
 嗚呼 殺してくれ愚か者
 
 積極的な破滅に向かえば
 歯向かえば 彩りない 道理ない
 but we'll keep on sailing further further
 
 積極的な破滅に向かって
 歯向かって 重い足取りは
 we must keep on going up going up
 降りないな
 太陽に近づいて 墜落して 粋楽して
 それでもなお続いてくの
 going up going up up up up!

 

 全体の展望としては、どことなく退廃的で無機質なイメージを目指しました。

 最初に思いついたのはサビの「積極的な破滅に向かえば 歯向かえば」という部分です。

 タイトルは、1番のAメロとサビができたくらいのタイミングでつけました。平らで温度感のない響きの単語を探し、さらにシンプルな印象にするためカタカナ表記にしました。それから、「アストロノーツ」つまり宇宙飛行士の要素に合わせるため、宇宙関連の言葉を多く使っています。

 あまりストーリーやメッセージを考えたわけではないので、聞いたときやや口に出したときの気持ちよさ重視で書きました。

 

 それでは、詳解に移ります。

 

 命の泡はかつ結びてかつ消え
 留まらない平衡を保ってる
 ただの濃度の高まりが
 こんなにも苦しみに纏わりつかれて
 疲れてるはずがない

 

 生命観のひとつとして有名なものに「動的平衡」の考え方があります(福岡伸一さんの著書が有名ですよね)。また、その考えが紹介される際には鴨長明の『方丈記』の有名な冒頭部分になぞらえられることが多いです(実際、先述の『動的平衡』のほか、様々な人の著書で並べて紹介されています)。中高生にはきっと身近でしょうか。

 一行目は思いっ切り方丈記の引用ですね笑。循環する生命観というと、生命の神秘や自然との一体感を思い浮かべる人も多いと思います。その感覚と、現実とを比較してこのパートは作られています。「はずがない」はかなり強い否定のフレーズなので、伴奏が繰り返しとなっているこのパートでも飽きがこないために役立っているかと思います。

 

 いや、そうじゃない
 天の星まで巻き込みたがって
 圧倒的に足りないものを
 それじゃあ恋も叶わないな
 嗚呼 殺してくれ愚か者

 

 先の否定形にまた重ねて否定形です。二、三行目では高望みする自分(いや、人類規模?)を咎めているようです。「アストロノーツ」というタイトルから、星は「天」よりも「宇宙」にある方がしっくり来そうですが、敢えて「天」と古い考え方を引用することで、現代の科学信仰を皮肉っています(余談ですが、実際には私は科学が大好きで進路も理系です笑)。

 「それじゃあ恋も叶わないな」は意味の上では別に「それじゃあ何も叶わないな」でもいいです。ただ、「叶う」を自然に導くために「恋」としているだけです。

 「殺してくれ愚か者」はただの趣味です。急に思いついたのでそのまま入れました。

 

 積極的な破滅に向かえば
 歯向かえば 彩りない 道理ない
 but we'll keep on going up going up going up
 懲りないな

 

 「積極的」と「破滅」は対比、「積極的」と「(自分から)向かう」は仲良しですね。またいつものギャップ戦法やってるなー、と思っていただければ。「歯向かえば」は音をはめるためにつけただけです。強いて言えば、破滅に向かいたくない勢力、つまり自然の流れにさからって生き永らえようとする勢力への反抗を表しているでしょうか。

 「彩りない 道理ない」の部分はK-popアイドルの歌い方を参考にしています(玲瓏毒々でも言ったような?)。これも音で採用しましたが、(物理的な風景として)鮮やかな光彩もない、またその行動の動機となる道理もない、とこれからの道の暗さや自分の行動の闇雲さを表しています。その次の英語の部分はもちろん、「それでも進んでいく(上がっていく)」という意味です。なので、「懲りないな」と自分(たち?)に呆れているわけです。

 余談ですが私は小学生の頃からTWICEのファンで、今でもTWICEや他のヨジャグルを推しています(金欠なのであまりCDとか買えないのが悲しいですが……)。


 太陽に近づいて 融解して 寛解して
 彩りない 道理ない
 but we'll keep on going up going up going up

 

 「寛解して」は完治じゃないけどひとまず落ち着く、みたいな意味だった気がするので、太陽に向かい融けてしまうことで、いままでの悩みや問題が解決はしないが無くなる、みたいな感じでしょうか。

 二行目は好きなので繰り返し。そして、力強く進んでいきます!
 
 どんなに安っぽい言葉すら
 枯渇した星から逃げて
 沈没船に乗って 何光年先の場所目指してる
 そんな感覚なんだ愛は
 理屈じゃなくて追いつけない

 

 一、二行目は個人的に解釈がふたつあり、

①どんなに安っぽい言葉すら枯渇、つまりいかなる言葉でも口に出す者はない。すなわち人類はもう地球にいない。

②安っぽい言葉すら吐けないほど、人類には余裕がない。(滅亡しかけているが、絶滅したり逃避したりはしていない)。

です。作者ですら決められないので、みなさんお好きにどうぞ。

 宇宙船は沈没しませんが、退廃的な雰囲気のために沈没船と言っています。絶望的な、行き先の見えない長旅です。それを、愛に準えています。

 この辺りから「主人公は実際に宇宙船に乗っているのか、それとも自分の境遇をそれに例えつつ妄想しているのだろうか」と少し疑問に思いますね。皆さんの多様な解釈が気になります。


 いや、そうじゃない
 アキレスと亀持ち出したって
 呆れるほど真理は単純
 やっぱり君に敵わないな
 嗚呼 絶えなば絶えね玉の緒よ

 

 「アキレスと亀」は有名なパラドックスです。簡単に紹介しますと、足の速いアキレスがどんなに走ったとしても、のろのろ進む亀を追い越せなくなってしまうという矛盾した考え方のことです。これはもちろん間違っていて、有限の時間を無限に分割してしまっていることが原因で、誤った結論が導かれています。

(詳しく知りたい方はこちらのサイトがおすすめです)

 ダジャレは控えめに。「君」は初登場です。一番の通り「叶わない恋」がやっぱりテーマだったのでしょうか。

 「絶えなば絶えね玉の緒よ」は新古今和歌集から、式子内親王

 

玉の緒よ絶えなば絶えねながらへば 忍ぶることの弱りもぞする

 

という歌を引用しています。現代語訳(筆者による)は「私の命よ、絶えるならば絶えてしまえ。生き続けて(してはいけない恋を)隠すことができなくなってしまったら困る。」と言った感じでしょうか。身を焼かれるような悲恋! ここでは前半部分だけを使っています。もう無駄に長生きしたくはないんですね。

 
 
 消極的な破滅を待つより
 分かつより もう想いない 由(より)ない ないなら
 もういいや もういいや もういいや
 飛びたいな

 

 見てわかる通り、一番の「積極的な破滅」に「向かう」との対比です。由は一応「より」とも読むらしい……。後半はあんまり英語まみれも嫌だったので日本語で踏みました。


 この星から遠ざかって 窒息して 実測値で
 もう想いない 故郷を眺める
 holy night holy night

 

 「太陽に近づいて」との対比です。「故郷を眺める」の部分は飽きの来ないよう繰り返しをあえて避けました。
 
 飛び立ってこう 飛び立ってこう
 二人だけで不時着した先で
 通信機全部ぶっ壊して
 死のう 酸素を吸い尽くして
 行方不明になろう
 文字通り蒸発しよう

 

 できるだけ綺麗になるように言葉を並べ立てています。心中の誘い的な? 自暴自棄になっている様子が表現できているかと思います。

 
 いや、そうじゃない
 嫌そうじゃない?
 嗚呼 まもなく崩壊するこの船で
 やっぱり藍に染まっていた
 嗚呼 殺してくれ愚か者

 

 ずっと使ってきた「いや、そうじゃない」をようやく回収です。Bメロも三回目なのでパターンを破っています。「藍に染まっていた」は「地球は青かった」のイメージです。先述しませんでしたが、「殺してくれ愚か者」はイコール「愚か者(の私)を殺してくれ」という意味です。つまり、思いっきり日本語を間違えて使っています。
 
 積極的な破滅に向かえば
 歯向かえば 彩りない 道理ない
 but we'll keep on sailing further further

 

 一番とほぼ同じですが、それでも遠くへ、遠くへと進んでいく気持ちを強調しています。
 
 積極的な破滅に向かって
 歯向かって 重い足取りは
 we must keep on going up going up
 降りないな
 太陽に近づいて 墜落して 粋楽して
 それでもなお続いてくの
 going up going up up up up!

 

 一番の歌詞をもじっただけです。全体的に肯定的でポジティブなイメージで。「粋楽」は「する」をつけても動詞化できませんが、そんなの関係ねぇ、です。メロディーもやや改変。最後はひたすら叫んでクライマックスへ。

 

 詳解は以上です。退廃的な雰囲気と前向きさを両立しつつ、宇宙要素も生かしてふわふわした曲にできたかなーと思います。

 

 それではまたお会いしましょう。